第5話 CAEは本当に使えない!・・のか?[結果は当てにならないのか?]

今回は第4話の中で、「CAEが使えない!」理由として挙げた「①結果が当てにならない・・」についてコメントしてみたいと思います。

CAE、いわゆる有限要素法の歴史は古く、建築物、航空機、自動車等で数々の実績が有り、今では実用的に確立された方法と言って良いでしょう。

そうすると「①結果が当てにならない・・」理由は・・、やはり解析者がそれを上手く応用できていない場合がある・・その力量の問題かもしれません。

CAEは、形状をつくり、荷重・支持条件を入力し、エンター・・ポン!で、計算出来る様に見えますが、いやいや、そうは問屋が卸さず、それなりの知識と経験が必要だと思っています。
その例を挙げてみたいと思います。

材料力学の知見が乏しく、現物のイメージが出来ていない例

長さが2mで直径が1mmの針金の両端を固定し、その中心に100gの荷重をかけてみます。
イメージとしては針金でできた2mの物干しひもの中心に、100gの洗濯物をかけた状態を想像してください。
それを最も一般的でよく使われる方法(専門的には線形静解析と言います)で計算してみます。

結果は・・

なんと!!4008mmも針金が変形しているではありませんか!!
皆さん! こんなことがあると思いますか!! たった100gの洗濯物をかけただけで、針金が4mもたわむなんて・・

実は、材料力学の両端支持梁の公式を使ってもほぼ4mという結果が出るのです! 理論的には正しい様ですが・・なぜ!

なぜかというと・・・

 

通常は荷重がかかった場合には、それを支える反対の力が作用します。
この場合は100gの洗濯物に対し、物干しひもの両端にそれを支える50gの力が作用します。そして、洗濯物の力とそれを支える力はつり合います。
つまり・・洗濯物100g=物干し両端の支える力50g×2

だけどこの場合はそれだけではありません。実は、物干しひもが洗濯物の荷重に引張られて張力が発生し、両端にはひもの方向にそれを支える力が働きます。

例えば、ゴールテープを持っている人が走者のゴールの瞬間にテープを離さなかった場合を思い浮かべてください。
そうです・・テープを持っている人はその瞬間は走者の走る方向に引っ張られるのではなく、前方に引っ張られますよね。
イメージできたでしょうか。

この様に、洗濯物と反対方向につり合う力以外に、他に支える力が作用する場合は、専門用語で「不静定な状態」と言います。
この「不静定な状態」の場合は通常の線形静解析では計算ができないのです・・
この場合は非線形解析で計算する必要があるのです。(非線形とはなに? あまり馴染みはないかと思いますが、取り合えず流してください・・)

非線形解析で計算すると以下の様になります。

上の図では見難いですが、結果は物干しひもの変形量は18mm・・
これだと、皆さんのイメージと合うのではないでしょうか。これが正解です。

この解析の誤りは、まず、解析開始時点で「材料力学の知見に基づいて適切な解析方法を用いなかった」こと、そして、万が一誤った方法を用いても「結果を見た時に『何かおかしい・・』と思わなかった」ことだと思います。

解析者は材料力学の知見とともに、現場現物のイメージができる様に努力しなければなりませんね。  反省・・・

材料の知見が乏しい例

プラスチックの試験片(長さ50mm)を引張試験機で10mmだけ引張った計算例を紹介します。
このプラスチックの物性は以下のとおりです。
◇弾性率:1650Mpa
◇ポアソン比:0.4
◇破断点応力:70MPa (真応力です。 専門的な言葉ですので流してください)

一般によく使われる線形静解析で計算すると下図の結果が出ました。
(引張試験片は上下左右対称なので、1/4モデルとしています・・)

この時の解析者は次の様な結論を出しました。

【発生する応力は500Mpaであり、破断点応力を大幅に超えている為、完全に破断する!】

ちょっと待ってください!! 10mm引っ張っただけで、破断点応力の数倍以上の応力が発生する?
おかしくありませんか?

 

 

一般的なプラスチックの場合、それを引っ張ると下図の様なグラフになります。
横軸がひずみ、つまり、引っ張るととひずみが増えて行きます。
縦軸が応力、引っ張ると最初は応力がほぼ比例的に高くなっていきますが、降伏点を超えると引っ張ってもあまり応力の増加はありません。


通常のプラスチックは引っ張っていくとのラインに沿って応力が発生し最後には破断するのです。

ところが、線形静解析では最初の比例状態がどこまでも続くものとしてのラインを前提に計算します。

つまり、線形静解析では降伏点を超える様な解析はできないのです。

では、材料物性をほぼのラインになる様に定義した非線形解析で計算を行ってみると・・


発生応力は54MPaで破断点応力以下ですね。
破断しません。これが正解です。

線形静解析は、材料の弾性率とポアソン比だけ判れば比較的簡単に計算ができますので一般的によく利用されますが、材料のことをよく知ったうえで使う必要がありますね。

 

 

 

以上の様にCAE解析者は有限要素法の知識だけではなく、材料力学の知識、材料の知識、そして現場現物をイメージできるセンスを持つように努力する必要がありますね。
私も設計者・解析者として自戒したいと思います。