第8話 開発効率を阻むもの [開発部門の姿勢に問題は・・?]

新年あけましておめでとうございます。
今年初めのコラムは開発効率化について考えてみたいと思います。

開発効率の向上、及び、開発期間の短縮は多くの企業で喫緊の課題であり、長く議論されてきた課題でもあります。
開発の「フロントローディング」や「コンカレントエンジニアリング」が、効率化、期間短縮化の手法として一般的に唱えられていますが、これらは会社組織をあげて取り組まないとなかなか実行が困難なものですね。
私の経験からは、更に、『開発部門(又は、開発者)の姿勢』もこれらの実行を阻んでいる大きな要因ではないかとも思っています。

「フロントローディング」や「コンカレントエンジニアリング」にあまり馴染みがない方もおられると思いますので、まずは簡単にこの二つを説明してみたいと思います。

フロントローディング

一言で言えば、『開発行程の初期段階にリソース(人、もの、金)をかけ、前倒しにしましょう』ということです。
開発行程の初期では、変更も容易ですし、変更にかかるコストも低いので、開発の初期に十分なリソースをかけて問題点等を潰して行きましょうということです。

 

 

 

 

 

実際に詳細設計がかなり進んでからの設計変更は多くの時間と手間がかかりますし、生産設備を導入してから、或いは、量産に入ってからの設計変更は、更に莫大な時間と手間、そして費用がかかってしまいますからね。
下図のの様になれば、理想的ですね。

この「フロントローディング」を実現する為には、例えば次の様な手段があります。
3D CAD:設計の段階で3次元のモデリングをすることにより、試作前に干渉チェックや問題点の抽出等が視覚的に行い易くなる。
CAE  :試作前に製品の強度等を詳細に計算することにより、試作評価期間の短縮や失敗の繰り返しの削減等が図れる。
コンカレントエンジニアリング:次項で説明します。最も効果的かもしれません・・

コンカレントエンジニアリング

一言で言えば、『開発初期段階から開発以外の部署も加わり、開発業務を横断的に並行して進めましょう』ということです。
従来の進め方を『独歩型』、コンカレントエンジニアリングを『協働型』と称すれば、下図の様なイメージになります。

『独歩型』は開発段階の後半まで、主に開発部門だけで検討を進めますが、『協働型』は開発の初期段階から製造部門や品質管理部門等も加わり、開発業務を同時並行で進めて行くものです。

『独歩型』の場合、開発の終盤になってから、設備施工や製造上の問題が出てきたり、或いは、折角長い時間かけて開発したものが市場に受け入れられ難かったりして、結局、莫大なリソースをかけて設計変更せざるを得ない事態が生じる可能性が高くなります。

『協働型』の場合は開発の初期段階で各関連部署が参加して検討を進める為に、早いうちに様々な問題点が抽出可能となります。その対策も極めて少ないリソースで解決可能になります。

開発部門からすれば、企画、構想設計の段階でいろいろな部署が少しづつ参加すれば、雑音が増えてやり難いと思いがちになりますが、雑音は所謂、問題点であり、早晩、顕在化するものですから、早いうちに抽出しておいた方が良いでしょう。

ただ、『協働型』といえども、設計の主体は開発部門であり、開発部門が全体を差配する必要はあります。
でも、様々な課題を各部署が各部署の専門的な立場で同時並行的に検討を進める訳ですから開発部門の負担も減り、開発効率の向上、期間短縮が図れるものと考えています。
その分、開発部門は次の将来の開発にリソースをかけることができるのではないでしょうか。

更に期待される効果は意識の改革です。

『独歩型』の場合は各部署は殆ど開発に関与していない訳ですから、量産化を迎える時期になると新製品を批評家的立場で見ることになりますし、下表の様に開発マインドは全く醸成されない傾向になると考えます。

『協働型』の場合は開発初期段階から少しづつ参加している訳ですから、当然、当事者の立場でいますし、開発の各ステップで自らの問題として検討して行く訳ですから、技術の向上だけではなく開発マインドも醸成されるものと期待できます。

まとめ

「フロントローディング」や「コンカレントエンジニアリング」は、開発の効率化、期間短縮のみならず、組織としての開発マインドの向上が期待できそうです。
ただ、これを実行する為には企業内の組織全体として動かなければなりませんが、開発部門(又は、開発者)の姿勢も変えて行かなければならない様にも感じています。

開発部門はとかく「開発は自分達が責任を持ってやるもの(他部署には迷惑をかけたくない・・)」「売れて生産性の良い製品を自分達で開発したい」と思いがちで、それゆえに『独歩型』に傾きがちです。
更に私の昔の経験からすれば、「構想設計段階であまり外部の雑音を入れたくない」という意識も有った様に思います。(少なくとも私はそう考えたこともありました)

この様な開発部門の『独歩型』意識が、自ずと他部署の開発への参加を間接的に阻んでいるとも言えるかもしれません。
つまり、開発の効率化、期間短縮化を図ろうとすれば、まずは、開発部門の意識を変えていくことが第一歩だと考えています。

それでは、私は実行できていたのか?・・  甚だ自信はありません。
ただ、部品点数100点以上の家電製品を数人の設計者で企画から量産まで1年で開発しなければならない外部環境でしたので、組織としては自ずと「コンカレントエンジニアリング」を実行していた様に思います。(当時はこの言葉はあまり一般的ではありませんでしたが・・)